固有種、在来種にしては、あまりにも拡散スピードが速く、また侵略性が高すぎる、私はずっとこの点が気になっていました。もうひとつ、この種は、どうみても形がキバサナギガイ属(Vertigo)のものではないのです。むしろスナガイ属(Gastrocopta)、それも北中米や太平洋の島々でみかけるスナガイの仲間に似ているのです。実際、私は北米やカリブ海の島々、それにフィジー、トンガなど太平洋の島々で、この種にそっくりの陸貝を見て、もしかしたらこの種は、日本固有種などではなく、これらの地域からやってきた外来種なのではないか、と疑いを抱くようになりました。しかし、北米からカリブにかけては、多種多様なスナガイ属の種群が分布する地域であり、それらのどの種に対応するかを判断することはなかなか難しい状況でした。
そんな折、知人のアメリカ人研究者が、北中米のキバサナギガイ属とスナガイ属の系統進化の研究プロジェクトを始めたというので、よい機会なので沖縄のシモチキバサナギガイを見てもらいました。さらにその遺伝子の塩基配列を調べて彼らのデータベースにあるものと比較してもらいました。
その結果、シモチキバサナギガイは日本の固有種でも、沖縄の在来種でもなく、またキバサナギガイの仲間でもなく、実は中米からフロリダにかけてのカリブ海の周辺地域を起源とするGastrocopta servilis (Gould, 1843) (セルビリススナガイ)という種であることがわかりました。この種は、人や植物の輸送とともに、北中米から広く太平洋諸島に拡散し、特に太平洋の島々では警戒が必要な侵略的外来種としてリストアップされているものでした。日本産のものは、最初に発見された年代や場所からみて、終戦後、米占領下の沖縄で、アメリカ本土またはハワイ、グアムなどから、物資などにまぎれて持ち込まれたものと考えられます。
侵入に成功した侵略的外来種が、それと気づかれることなく、固有種と勘違いされたまま、どんどん分布を広げ、いつしか本物の固有種のすみかであるべき地域を制圧してしまったというわけです。
研究雑録: ノンマルトの使者 (via 5106)(via 5106)